連載ハードボイルド小説「G−メン'77」
前回までのあらすじ…… 女と一夜を過ごした殺し屋Gは、その後その女を始末した。
Gが本部を訪れると、ボスが作り笑顔で出迎えた。
「やあ、G。どうだい、調子は?朝飯、食うか?」
「要らない。向こうで食ってきた。それに、朝から仕事させといて調子はどうとか聞くなよな」
「フフッ、すまんな。じゃあさっそく、次の仕事について話そう。奥の床の間まで来てくれ」
本部とはいっても、ここは普通の家だ。表向きは藤田源三の一戸建てで、世間の目を欺くためなのだそうだが、一体藤田源三が誰なのかがGには全く分からず、それが不気味でしょうがなかった。
「ささ、入れ…」
この床の間には初めて入る。だが別にどの家にもあるような感じだったので、Gは何の感情も抱かなかった。
「さて、仕事についてなんだが… 実は、ある女を殺してもらいたい」
当然だろう、とGは思った。自分は殺し屋なのだから、仕事といえば殺しに決まっている。こういうまどろっこしい所がボスにはあった。
「また女か?…どういう女だ」
「ひどい女だ。まず男をすぐ裏切る。それもさんざん金を貢がせておいてだ。そして、裏切った後しばらくしてひょっこり現れたりする。私が悪かったとか、涙ながらにな。そうして男はまたすぐ騙される。そうしてまた貢いだ後裏切られる。最低な女さ。だがやはりそんなことが出来るだけの美貌は備えている。これがやっかいだ。やっかいだがG、やってくれるか」
「……は?」
Gは思わずそう返してしまった。何だ、何を言っているのだこの56は。その女がひどいかどうか知らんが、なぜ自分がソイツを殺さなければならない。今まで自分に依頼が来た仕事といえば、政府の要人暗殺だの、大事件の裁判の証人抹消だのそういったやりがいのあるものばかりだった。だのにこの60(四捨五入)はなにを言っている。そんな女を殺せと言うのか、この自分に。
「G、頼む。このひどい女を始末してくれないか」
「ふざけるな!こんな依頼、どこか他の安上がりなヤツにでも持ちかければいいだろう!何でこの俺がこんな仕事を受けなければならない!?」
「頼む、G…女を……あの女を一息に…」
…?Gは違和感を感じた。この還暦ジジイはその女と関係でもあるのか?
「…アンタ、その女と…」
「……ああ、アイツは私の、愛人だった女だ…」
藤田源三の床の間が、揺れたような気がした。